第6回選抜高校ラグビー選手権大会   05. 4. 2

    20年ぶりにグランドでラグビーを観戦してきました。最後に観戦したのはあの《北の鉄人 釜石》

   全盛の頃でした。釜石の火が消えてからはラグビーに熱くなることも無く、わざわざグランドに出かける

   ことが有りませんでした。神戸製鋼や東芝は確かに強かったかもしれません。しかし釜石のように名も

   無い東北出身の高校生たちが、努力と心の結びつきで掴んだ頂点とは違うような気がします。国立競

   技場で大漁旗が打ち振られる異様な光景はなかなか理解されることは無いでしょうが、私が懸命に見

   ていたのは単にスキルや勝ち負けではない、東北の片田舎の地中から湧き出すような心根だったの

   かもしれません。正にあの大漁旗に象徴されています。

    確か6連覇目の年だったと思います。フランカーの高橋だったと思いますが、交通事故を起こしたこと

   があります。運悪く被害者の方は亡くなられました。そんな苦しみを抱えての社会人大会を釜石が制し

   たのですが、優勝が決まった瞬間フィフティーンの胴上げで宙に舞ったのは高橋だったのです。スター

   プレーヤーで優勝に導いた松尾でもなくキャプテンの洞口でもない、最も苦しみを抱えて戦いに臨んで

   いた者をいの一番に胴上げしたのです。宙に舞いながら男泣きに泣く高橋の姿が今でも忘れられませ

   ん。北の鉄人達は強さの中に優しさがありました。苦しさを一緒に背負う連体意識がありました。強いフ

   ィットネス、高度なスキル、確立されたフォーメーションとは全く別の要素、純朴な心こそ私の中で強さ

   の魅力だったのです。そんなチームはもう現れないでしょう。グランドでラグビーを見ることなど二度とな

   いと思っていました。

   北上市は黒沢尻町を中心とした町村合併で昭和29年に誕生しました。黒沢尻と言う校名はその名

   残りです。高校時代私はラガーで、当時岩手のラグビーはそこそこのレベルにありました。盛岡工業、

   黒沢尻工業は双璧で、なんとか追いつけ追い越せと努力をしましたが、報われることはありませんでし

   た。中学の同級生の多くが黒沢尻北高や黒沢尻工業で活躍し、仲間たちの数人は花園を経験してい

   ます。私の母校岩手高校は一度も花園の土を踏んでいません。在籍した3年間の中で2部リーグで惨

   めな戦いをした事もあります。残念ながら私のラガー人生はとても自慢できるものではありません。そ

   れでも目を閉じると脳裏には私自身の壮健な肉体が甦ります。

   熊谷ラグビー場で開催された第6回選抜大会になんと黒沢尻北高が出場したのです。東北第2代表

   です。幼馴染のご子息が選手として出場しました。この応援に出かけたのです。

    1回戦で愛知代表旭野高校に僅差の逆転負けをしてしまいました。我が家に泊まって二日目も応援し

   たいと言うので、何年ぶりかで二人は浴びるほど酒を飲みました。

    敗者戦の相手は愛媛の新田高校でした。トライを10本ほど奪って大勝しました。基本がしっかり出来

   た良いチームでびっくりしました。良くラグビーを知っている。でも全国レベルには少し差がありそうです。

    啓光学園・伏見工業・筑紫高校・大分舞鶴などの高度なスキルをみると、核になる選手がいない黒北

   はやはり見劣りしました。それでも前日敗れた高校が大阪代表の近大付属といい勝負をしていました

   ので、黒北の実力もある程度判断できました。花園が楽しみです。

      
     【友人の御子息】       【トライを奪いました】

   熊谷ラグビー場でメインスタンドから観戦するのは素人です。バックスタンドの芝生で見るとA・B両

   グランドの試合を楽しめます。Aで秋田工業、Bで茗渓、またAで青森北、Bでは啓光と何と贅沢な・・・。

   Aで歓声が上がるとAに目をやる、そんなお得な忙しい観戦です。

    また熱くなってしまいました。多くの大学関係者などがグランドに来ていました。おそらく選手の発掘に

   来ているのでしょう。天理の田中や立正の堀越など往年の名プレイヤーが目白押しです。最後までこの

   道を全うできなかったことが少し残念でもあります。

   応援合戦も楽しいものでした。かえって余り全国レベルでの大会に経験の少ない学校の方が応援団

   も多かったようです。黒北などは100人ほどの女子生徒が昔ながらのバンカラ応援団のリーダーの下

   で整然とした応援が展開されていました。珍しい応援風景にテレビカメラは付きっ切りで撮影していまし

   た。岩手にはこんな応援をする学校が多くあります。盛岡一高・水沢高校・黒沢尻北などです。

    試合終了後、応援団は相手新田高校にもしっかりエールを送っていました。青春時代を思い出しまし

   た。礼儀正しさ、岩手人の純朴さ、何のてらいもなく続けられる応援に良き伝統も感じました。羨ましくも

   ありました。

    昔の自分を取り戻した楽しい一日でした。友は岩手に帰っていきました。

      
   【昔ながらのバンカラスタイル】  【こんな時代が懐かしい】

    11月に入って友から連絡がありました。黒沢尻北高校は見事に岩手県予選を勝ち抜き『花園』の切

   符を手にしました。花園ラグビー場で再びバンカラな風景が展開されるのです。先輩・父兄など関係者

   の方々を、羨望の目で眺めている自分をどう慰めたら良いのでしょう。


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