ヒグマとお花畑の・・・トムラウシ山
- 7月 16日新潟乗船
- 7月 17日苫小牧着、道の駅むかわ泊
- 7月 18日美瑛・富良野 道の駅蔵泊
- 7月 19日大雪山登山 望岳台泊
- 7月 20日十勝岳登山 道の駅 占冠泊
- 7月 21日弟子屈に友人を訪ねる 雌阿寒温泉公共P泊
- 7月 22日雌阿寒岳登山、平取に移動 豊糠山荘付近泊
- 7月 23 -24日幌尻山荘泊
幌尻岳登山 道の駅むかわ泊 - 7月 25日支笏湖・倶知安 半月湖キャンプ場泊
- 7月 26日羊蹄山登山 道の駅ニセコ泊
- 7月 27日移動 道の駅 鹿追泊
- 7月 28日トムラウシ山登山 道の駅樹海ロード日高泊
- 7月 29日苫小牧乗船
平田影郎
前夜は道の駅鹿追に泊まる。綺麗な施設で水も使える快適な施設。駐車場も広い。そしてその割には旅行者の車が少ない。たまたまこの日は町が主催する花火大会で、あっという間に車が溢れだして驚いた。
一緒に車の中から花火を見ていたが、知らない間に眠っていて目が覚めた時には車が無くなっていた。
そして再び眠りに落ちて・・・次に目が覚めたのは2時半ごろだった。
天気はイマイチだと判っていたが、待機しても数日間は改善が無いとの天気予報。滞在できる日数も先が見えて来たので、やはり『今日登ろう』と思い立つ。
とりあえず起き抜けのまま、トムラウシ温泉を目指す。
トムラウシ温泉の駐車場でトイレを使い、更に案内板に導かれて【短縮路登山口】まで走る。この林道は恐ろしく狭い。
最後の2~3㌔は交差ができないので対向車があったらお手上げだ。こんな道は大嫌いで、もうトムラウシに挑むことは無いだろう。
到着したのは5時になっていた。悪天候が続いていたので、この合い間の日をみんな待っていたかのようだ。
車は駐車場に溢れるほど停まっている。
おそらくは縦走の人や上でテン泊する人も多いのだろう。車の数は50台以上はあった気がする。しかしその割には閑散としていて準備をしているのは数人に過ぎない。後でわかった事だが私の後には2組の登山者しかいなかった。一人は東京から来た若者、そしてガイドさんに案内された二人のご婦人。
私はスタートがあまりに遅すぎた。少し焦りながらも恐々登って行く。何故か・・・このトムラウシではヒグマに意識が攪乱されていて、遭遇する夢まで見ていた。
トムラウシ温泉からのコースを併せたあたりでのことである。恐怖心があるので・・・よ~~く前方を注視しながら・・・目を凝らして歩いていると、何か大きい物体が登山道を横切った。
知ってる知識で判断すると間違いなくヒグマだったが信じたくはない。懸命に打ち消していた
『いやいや違うはずだ』と。
でも見えているお尻は紛れもなく熊。しかもあろうことかそのまま通り過ぎず、半分ほど藪の中に隠れていたのに後ずさりして登山道に姿を現した。
鹿であろうことを願ったのに、その希望は数秒で霧散した。
横断する時に私の体が視界に入ったのだろう。後ずさりで戻ったその場所で、後ろ足で立ち上がった姿勢で私の方を見ているのだ。
テレビのコマーシャルで風太くんがやっているあのポーズで・・・。私は何かをしようとしたのだと思うが全く覚えてはいない。ただ走って逃げようとは思えなかったのが幸いしたのか・・・ヒグマは私の方に近づいてくる事は無く、4本足に戻って藪の中に消えて行った。
内地にいる時から・・・遭遇して、もし近づいてきたらパンでも投げつけて興味を引き、その間にゆっくり後退する作戦を考えていたのに・・・肝心な時にパンは確りザックの奥にしまいこんでいて使えない。
何のためにシュミレーションしていたのか、全く意味がなかった。とてもの事ザックを背中から降ろして・・・パンを出して・・・投げつけて・・・なんて無理。
明らかに出発が遅れて準備が整わない状態でスタートしたのが、命取りになるところだった。
ヒクマに捕食興味が無くて本当に助かった。あるいは臆病な熊だったの? いずれにしてもこれだから北海道の登山は気が重い。
私が出発後に追い越した老人夫婦、単独行の若者、ガイドと二人のご婦人がこの後にこの地点を通過しているが、クマの話は出なかった。
私の前は20人以上のツアーが進んでいた。何で私にあたるのだろうか・・・運が悪いにも程がある・・・助かったから良いものの!
いずれにしても北海道では身近にクマがいて・・・私は恐がっているので発見したが、あまり意識していない人は目前を横断されても気が付いていないだけだと思う。
帰りに温泉に報告しようとすると『ヒグマは毎日出ているので報告は結構です』ってフロントで言われてしまった。
『登山道を通行止めにされたら登山者もこまるでしょう』って言ってましたが、営業も大事ですが事故があってからでは遅い。せめて確り注意を促したら・・・と思った。
クマが入って行った藪を通り過ぎるのは・・・ものすごい恐怖。まだそこに居たら・・・と思うと心臓も凍りつきそう。
思いっきりベルを鳴らしたが効果は疑問だ。そこには踏み跡が確りあって、おそらくいつも通っている【獣道】だと思う。
そこからコマドリ沢までの笹薮の登山道はぐちゃぐちゃの道、まるで泥田の中を歩いているようだ。たいした上りではないが、恐怖と戦いながらの道は長く感じる。既にツアーを追い抜いていて後続者は沢山できたが、先行者は分からない。しかし今私を追い抜いた若者が目の前を歩いていて、これには精神的に救われる。
ヒグマに会ったことは話していないので、この若者は知らずに先行してくれているのだ。
コマドリ沢へは標高で100㍍ほど大きく下る。もったいない。
コマドリ沢の本流を横断していると、目の前から若者が消えてしまった。一瞬のことで何があったが理解できなかったが、間をおいて若者が雪の間から這い上がってきた。雪渓が割れて川に転落したのだった。
幸い水量が少なくて、流されることは無く命に別状は無かった。しかし下半身はグショグショ、靴とズボンはずぶ濡れだった。
コマドリ沢の雪渓は500㍍ほどあった気がする。登るのに20分ほど。雪は腐っていたが分厚く残っていて、
こっちは崩落の心配はなさそうだった。
キックで一歩一歩登るが、ステップが出来ていてアイゼンまでは必要ない状態だった。
雪渓を登り終えて食事にした。ここまで何も食べていなかったので、食が進む。
雪渓を終えると視界が開けるゴーロ帯となる。ゴーロ帯を横断すると前トム平が近い。高度を上げると
ピークが見えてくるが、これはトムラウシの本峰ではない。本峰はまだまだ見えてこない。
前トム平に標柱があって見落とすことは無いが、ガスなどで視界が悪い時は広い尾根がかえって災いしそうである。十勝方面の山はガスの中で、僅かにどこかのピークが雲の上に望めた。どうも今日も眺望は期待てきそうにないと実感する。
ケルンが積まれているこの場所から見えているのも、トムラウシのピークではない。本当に遠い山だ。
再び岩場を下ってトムラウシ公園に着く。
このあたりからはお花畑が展開し始める。かつて見たこともないような規模のお花畑。しかも北海道ならではの花々だから、新たな感動もあり飽くことなく写真を撮り続けた。
若い女性が花の名前を聞いてきたので教えてあげて、いろいろ話をするようになった。出身は長野だが、
今、札幌にいるという。おそらくは学校の先生って感じ。友達と来ていて帰りは東大雪荘でも一緒になった。
『花のオジサン』って友達に話していたようで、友達が『この方が花のオジサン?』って聞いていた。
友達とは山頂でも一緒だったので、良く覚えてくれていた。『あのブルーのザックの方ですよね?』って。
よほど【変なオジサン】だったのか、あまりに汚らしかったのか・・・いずれにしてもインパクトのあるオジサンだったようだ。喜べないなあ。
とにかくお花畑がすごいのなんの・・・前回の幌尻が最高だと思ったが、トムラウシのそれはさらに凄かった。もう圧倒されて、十分満喫。
往路で追い越したツアー客とトムラウシ公園ですれ違った。ツアー客からあまりの素晴らしさに歓声が沸きあがったほど。
エゾツツジ・エゾツガザクラ・エゾコザクラ・コマクサ・・・・・・・花・花・花・花の海だ。
日本庭園のような花の海の中を登って行くと十勝岳方面への分岐に出る。ここから山頂までは15分ほど。
今日も山頂は強風が吹いていて、寒くて長居は出来そうにない。しかもガスはしつこく山頂に纏わりついていて、北海道最後のピークでの眺望さえ与えてくれなかった。
前世によほど悪い事でもしたに違いない。30分ほど休憩しながらエネルギー源を摂取して、先行者が何組か下山してから下山にかかる。
コマドリ沢から先の樹林帯を、何人かの先行者あるように調整してみた。狙い通り数組が行ってくれた。しかしこれがままならない事を、すぐに思い知らされる。
地元の登山者はヒグマの怖さを良く知っているから、絶対先行しないように意図して行動していると感じた。
なぜなら樹林帯に入る前などで、必ず後続者が先に出るように、食事などを始めるのだ。
今回も私が接近した事を知ると、コマドリ沢のところで食事を始めた。
ホロホロが前から行っていた事だが・・・初めは『まさか』と思っていた。でも思い起こしてみればこれまでの全ての登山で、地元の登山者のそうした行動が思い当たる。
しかしそんな汚い手を使っても、必ずそうはならないとも今回実体験で判った。先行者がいたのに私がヒグマに遭遇したのだから。
無理やり前に押し出されたが・・・仕方がない。覚悟して進んだ。でも考えてみればこれだけの登山者がいる中で、往きも帰りも私だけがヒグマに遭遇する確率は天文学的に減少するはずだ。ゼロではないにしても・・・少し心に余裕を作って下山した。