気力を振り絞って【恵那山】
平田影郎
今年初めての山行は鍛錬不足でも行けそうな『百名山』を探すと、もうこれしかない・・・と【恵那山】に決定したのだか、現地までの距離を考えると早くも気力が萎えていた。それを見越して朝6時まで寝ている事が出来れば、それ程の負担を感じる事なく起きられるのではないか。〝登山口に10時〟を目安にしたのが正解で、予定通りベットを離れる事が出来た。
うっかりすると東京方面から薗原ICで降りられると勘違いしてしまうが、名古屋方面に向かって降りることは出来ない。一つ手前の飯田山本ICで降りてR153を昼神温泉方向に向かう。途中コンビニに寄る事を考えればかって便利でもあるし、しかも僅か20分程で薗原IC脇を通り抜けて林道を走っている。
案内は親切とは言えず途中で2回も『あれっ』と思う場所があったが、通行止めゲートまで無事到着することができた。舗装された林道は多少狭いものの確りした道であった。
ゲート前の駐車場には既に20台程が停車されており、さらに手前の草むらにも道の左右に10台ほどが置かれている。10時に到着するのでは流石に遅かったようだが、登山最盛期前と言う事もあって何とか駐車できた。
登山口まで30分の歩きと聞いていたが、川沿いの林道はロケーションを楽しむ事ができて苦にはならない。
小さなトンネルを抜けると広河原はすぐであった。
いきなりの急登である。山渓の地図では1.716㍍地点まで【1:40】となっているが、鍛錬不足の私の足では2時間にもなりそうだ。体調の件もありゆっくりゆっくり登っているが、動悸も激しい気がする。
ブナ林帯を過ぎると私の周りは虫が飛び回り、まとわり付き、耳の穴・目・呼吸する口にまで飛び込んでくる。
黒い柱が近づいてくる・・・と思ったら、虫にまとわり付かれた登山者であった・・・と言うのは冗談だが、これほど虫に好かれたのは甲武信岳以来だ。
とにかく虫の襲撃には手を焼いたので、恵那山はこの時季に止めた方がいいかもしれない。お腹が空いてどうにも我慢が出来ず虫の中でおにぎりをほおばった。数匹の虫を一緒に食べてしまったかもしれない。
途中、ご夫婦で花に夢中になっておられる方がいて、奥さんに【ゴカヨウオーレン】を教えていただいた。
1.716までは意外に早く到着できた。出発が遅かったせいもあり続々と下山者が現れる。
黒井沢からの尾根に出会うまで1時間20分を要したが、その後は山頂まで厳しい上りはなかった。見通しの効く尾根から望む南アルプスは、よどんだような空にあった。
山頂に到着し櫓(やぐら)に上ってみても展望はない。立ち木が邪魔なだけではなく立ち木が無かったとしても 、よどんだ空はご褒美に眺望をくれることは無かったと思う。
山頂標の前にはご婦人の団体が占領していて、なかなか解放してくれない。しばらく我慢していたが、お願いして場所を空けていただいた。
小屋の方に移動してみたが小屋裏の岩からも展望は得られなかった。
食事を終えて下山にかかるとパラパラと雨が落ちてきた。このまま降られたら沢の増水が心配だったが、雨はほんの一瞬だけであったし、上流側にも厚い雲は無く心配は取り越し苦労であった。ゆっくり下る事が出来たのはヘロヘロ・バテバテの足には何よりの救いである。
広河原で大休止にした。登山口にある湧水をペットボトルに汲んで持ち帰り、コーヒーをいれるとビックリするほどクリアに仕上がった。ドトールに負けないほど美味しいコーヒーであった。
広河原には珍しい蝶が数種確認された。そのうちの一種が写真の固体である。さらに珍しいのは【アサギマダラ】が目の前を横切って飛んだことである。これから恵那山を目指す方は是非注意してみてもらいたい。見たこと自体を自慢できるほどの体験だ。
百メートルも追いかけたが、悠然と漂いながら何処かに消えていった。
ゲートまでは朝より10分も余計に時間を要した。蝶を探したり、足がパニックだったりで時間を要し、ゲートに到着したときには数台の車しかなかった。
温泉は昼神温泉の阿智の里。もともとは国民年金の保養施設だったが、民間に払い下げられリーズナブルな価格で運営されている。
掛け流しではないものの気持ちのよい露天が癒してくれた。特に受付にいた少しだけベテランのお姉さんは、何を聞いても笑顔で年寄りの相手をしてくれて・・・グッドである。
赤い橋を渡るが、狭くって思わず『通ってはいけないの?』と迷ってしまうような橋だったのも面白い経験だ。