花の百名山 針ノ木岳縦走1(岩小屋沢岳・・・2,630㍍)
平田影郎
光岳にするか針ノ木にするか豊科インターに着くまで迷って、最後は易老渡までの林道が崩落する不安に耐えられず針の木に決定。
どちらも魅力ある山行だったから決して間に合わせではなく、何年も前から恋焦がれていたコースではある。ハードな山行になるだろう事は容易に察することができ、それだけに脚力に自信が持てなくてここまで挑む事ができなかった。脚力に自信の持てる今年ならではの山行である。
豊科で高速を降りると無性に眠くなりスイス村の駐車場で少し眠った。おそらくは30分ほどだろう。そして扇沢に着くと6時半であった。とりあえず駅のタクシー待ちの場所に車を停めトイレに・・・そして一番下の未舗装の駐車場に停めた。
ここから扇沢橋までは10分ほどで、針の木登山口からの下山時にも車に直ぐ戻れる。
前日の雨が信じられないほど晴れ上がり、今日・明日で踏破する峰々がすべて望めた。1時間でケルンに着くがそれまでの眺望は全くダイナミックで武者震いなのか緊張なのか小刻みに体が震えていた。ロケーションに圧倒されたのかもしれない。
花もまあまあ咲いていた。カライトソウが群生しトリカブトやアザミが沿道で私に声援を送ってくれる。
ケルンを過ぎて進むと残念なことにガスが巻き始めた。水平道辺りでは稜線が見えなくなっていた。山の天気はあっという間である。
3時間を歩いて種池山荘の屋根が見える。眺望はないが辺りのお花畑はフウロやシシウド・シモツケが今を盛りと競演していた。
これはこれで満足・・・。前回はこのお花畑に気が付かずに通り過ぎていた。余裕がなかったのだろう・・・相手が鹿島槍では仕方がなかったと思う。歩き通す事だけで頭がいっぱいだった。
とりあえず妻に電話を入れてこのコースにしたことを伝えた。二通りのコースをメモしておいてきてあり『第2案だ』と伝え、『今、種池に着いた』と言うと、『じゃー○時に新越山荘だね』って・・・よく分かっている。休憩の間に名前の由来の【種池】を見に行くと、何ともわびしく小さな水たまりである。それでも周囲にはフウロなどが咲き、ガスにまかれたロケーションは・・・静かにねむっているようだ・・・なんて『霧の摩周湖』の盗作を。
岩小屋沢岳に向かって進むと一旦軽く下りお花畑が現れる。稜線の方が花の種も多く草原を埋め尽くすように咲いていた。フウロ・キリンソウ・トリカブトなど夏の花だ。途中に今まで見た事の無い花が咲いていたので、とりあえず写真に撮る。
本来私はあまり白い花に魅力を感じないが、不思議に『この花は何か違う』と感じたから・・・。
後で新越で知り合った滋賀のご夫婦に教えていただいたが『オオレイジンソウ』だった。
また蝶が飛んでいたので『高山7種の一つに違いない』と思って写したが、これが『クジャクチョウ』・・・結果として何種か飛んでいたうちのこれしか写せなかった。
お花畑の散策道に入ってみた。小さいお花畑だが見応えはあった。稜線にはずっとお花畑が続く。トリカブトが一面に咲く原やフウロが圧倒的に支配する原・・・花の時期の山行はこれが楽しみなのだ。
トリカブトなんてどの山にも生えているから、写した写真は数百枚かもしれない。しかし不思議に飽きた・・・という感情が湧いたことはただの一度もない。同じ花であってもロケーションの中にあっては、それぞれ異なった風情がある。
お花畑を過ぎてしばらく登るといよいよ今回の山行最初のピーク【岩小屋沢岳】である。残念だがガスの真っただ中・・・大岩に腰を下ろし昼食とする。
パンやエネルギー飲料を摂って元気回復・・・新越山荘を目指す。ここまで二人の方とすれ違ったが・・・・・何ともさびしく・・・人気のないコース?
ガスが巻くので余計に寂しさが募る。歌を歌いながらやってきた女性・・・どうも種池のスタップのようだが、『新越山荘は今日は空いている』と教えてくれた。
実は私は少し迷っていたのだ。12時に新越では時間を持て余してしまうから、5時間先の針の木小屋まで行けるかも・・・と。
扇沢をあと1時間早く出ていたら間違いなく針の木小屋を目指していた。でもこの女性が『今日の宿泊予約は3人で、今二人の方が向かったのでせいぜい10人ほどだと思う』というのをきいて私の心は決まった。
『眺望もないガスの中をあと5時間歩いて、しかも混んだ小屋に泊まるのはまっぴらだ』って。明日の天候回復にかけてみようと思ったのだ。結果としてはこれが大正解で、翌日の縦走路はかって経験がないほど素晴らしい歩きができた。
岩小屋沢岳の次のピークには名前もない。縦走路から僅かに外れていて、物好きにもわざわざ登ってみた。【ここより先に進むな】という看板があるだけで、さびしい山頂だ。この看板を写真に撮ったが・・・後で宿で大笑い・・・滋賀のご夫婦の奥さんも全く同じ写真を写していたから。
物好きな人種は意外に多いものだ。少なくても埼玉と滋賀には生息していた事が判明した。
1時間強を要して新越に到着。登り返すのがもったいないほど下って、ガスの中からひょっこりと現れた。好天だったら遠くから見えたに違いない。山荘前には数組のパーティがいた。一組のご夫婦に声をかけると『今日は新越泊り』と言うので、私も迷わず最終決断をする。
小屋の前にいた方達のほとんどは種池を目指す方で、あと2時間程で到着できる。しかし逆方向の我々は5時間を要するから、選択肢は一つしかなかった。この後宿泊者は女性が一人増えただけで、総勢で4人だけ・・・さびしすぎる。
山小屋での山談義も山行の楽しみだが、人がいなくては山談義も出来はしない。しかし逆に少ない4人は妙に親近感があって、楽しい一夜となった。
受付を済ませて部屋に案内されると、その部屋には私が一人。個室待遇は3回目だ。【北岳山荘】と【薬師岳山荘】そして今回。
下の写真の男性は靴が壊れて修理を試みていますが・・・治りません。紐を通すフックが鋲ごと抜けてしまい、紐をきつく締める事ができなくなったのだ。カルーーイ気持ちであれこれアドバイスしていたが、あとで気が付くと今私が履いている靴と全く同じもので『買ってから1年も履いていないのに・・・』という言葉を思い出して、愕然。
やっと足に合う靴に巡りあえたのもつかの間・・・またしても苦労するのか?
夕食までの時間も布団にもぐりこんでうつらうつら…どうかこの部屋に宿泊者が増えませんように・・・と、お祈りしながら。一時3人の女性パーティが来ていたが、結局種池に向かったようだ。
夜は7時半には眠っていた。なにせ安心してイビキがかける・・・私の山小屋泊りにとって究極の幸せ・・・である。