新潟-1. 八海山
満ち足りた一日
平田影郎
初秋の一日をどう過ごそうか考えていると、妻がイワナを釣ってみたいという。妻の体力では一日中イワナを追いかけるのは不可能だ。2時間ほど三国川の十字峡付近で釣りを楽しみ、そのあと山歩きをすることにした。
十字峡から近くて妻にも楽しめそうな山は・・・と考えて、ゴンドラで高度を稼ぐことができる八海山と決めた。
八海山に対して私には強い思い入れがある。20年ほど前になるが釣りを始めたばかりの私は、八海山に源を発する坪沢などを釣り歩いていた。いわば釣師としての私を育んでくれた山河なのである。そんな母なる山を妻と歩いてみたかったのである。
八海山といえば薬師・大日・入道など名だたる岩場の名峰で、ビギナーが簡単に登頂できるとは思えない。妻次第で行ける所まで行けばいいと最初から考えていた。
ゴンドラは10分程で山頂駅に着く。ここからゆっくりゆっくり進んだ。道はよく整備されていて本当に歩きやすい。多少のアップダウンはあるものの登山とは呼べないほどだ。妻には丁度良い。途中何組ものご夫婦に会った。夫婦での登山がブームのようだがこんなにも多いとは・・・夫婦で価値観が同じというのはいいことだ。私たちもそうなりたい。
浅草岳女人小屋の手前で水無(みなし)川源流部を見下ろすことができる。深く深く山間に切れ込む水無の流れも懐かしい。2回の休みをとり小屋手前の梯子場を越えると小屋に着いた。
小屋からの越後平野はあたかも黄色の絨毯を敷いたようで、六日町の町並みはカラフルな模様に思えた。魚野川は時々キラリッと光りながらゆったりと蛇行して流れ、遠く越後川口方面の水面は僅かに霞んでいた。越後三山の駒や中岳がどっしりと控え、目を転じれば山並みの彼方に戸隠までが望めた。
見渡す限りの越後が静止していた。ゆったりと時間が流れていた。ここから薬師までの登りは妻には無理で、1時間ほどの休憩の後下山した。ゴンドラを降り駐車場の片隅でコーヒーを点ててゆっくり味わった。