花の飯豊を大縦走・・・飯豊山【大日岳】 Ⅰ
平田影郎
【1日目】
梅雨が明ける前の晴れた日に行こう・・・こう考えるようになってから何年が過ぎたろうか。
なかなかタイミングが合わずに数年を空しく費やした気がする。
家族の病気、仕事の都合、何より財政難・・・妻の理解を得なければ不可能な計画。私の山行費用は毎月の小遣いの中から・・・冬の間に爪に火を灯しながら蓄えたものだ。
だから冬の期間に何かが発生すると、翌年の夏の期間の山行は制約されざるを得ない。
今年はなぜかすでに底を突いている蓄え・・・そしていきなりの梅雨明け宣言、完全にだまし討ちにあったようにまごついてしまった。
マーケットがオープンするのを待って食料を買いに行き3日分の簡便食材を揃えた。そして夕方出発。
費用を削減するために0時をまたいで高速を利用したい。本当は少しでも早く小国町の天狗平駐車場に到着し・・・眠りたい・・・が途中の豊栄SAで眠る。
そして2時半に起きて天狗平に向かった。今回の山行には食事の出る山小屋を利用できないから、すべて自分で担ぎ上げなければならないしシェラフなどの寝具も自前だ。
今年は何故か費用が少ないと不思議だったが・・・・理由はダウンのシェラフやシェラフカバーなどを買い求めた事で数万円の違いが出たようだ。飯豊山行のための事前の費用をすっかり忘れていた。
4時半に天狗平に到着。準備が終わると5時になっていた。最近のバッテリートラブルに意識を奪われ、とんでも ないミスをしてしまった。
なんと夕べ豊栄SAで寝た後に網戸のままでここまで走ってきたらしく、しかもチェックしないで出発したために キャンピングカーは窓が開いたままだった。
幸いなことに網戸があったために閉まっているように見えたのか盗難などの被害もなく、3日間雨が降る事なく救われた。
丸森尾根側に2台、梶川尾根側に5台駐車されていただけで、どうも寂しい山行になりそうだ。空いているのは嬉しいが・・・もう少し登山者がいてくれないと。
梶川尾根はいきなり急激に登りだす。そして何より辛いのは人間の歩幅で上がれるような段差ではなく、木に掴まったりしながら体を持ち上げるような嫌な高さが続いている。
湯沢峰まで2時間、さらに滝見台まで1時間半ほどだったろうか。滝見台ではちょうどガスが巻き、眺望を楽しむことはできなかった。
ブナ林の中をどんどん登って行く。辛い登りだが高度は一気に稼げる。
五郎清水で水場に降りて行くが・・・どこが清水か分からなかった。ブナは数百年の年輪を感じさせる大木だ。
5時間をようして梶川峰に到着、一気に視界が広がる。山々にはガスがかかるもののダイナミックなロケーションが展開する。そして花・・・ヒメサユリ・ニッコウキスゲ・リンドウ。
辛いのはここまでであとは花を楽しみ峰々を楽しみ、ゆっくり天空の漫歩。
梶川峰付近はネマガリタケ(チシマザサ)の藪が続くが、何かものすごく【クソ】臭い。ネマガリタケが食いちぎられて散乱し、動物の爪痕も残っている。
これは絶対【熊】だと思って、大きな声を出して進んだ。
後で梅花皮(かいらぎ)小屋管理人の関さんに話すと『猿のクソは臭いから、猿だろう』とのこと。
でも『大声を出したのは正解』と教えてくれた。
北股岳が左手にどっしりと控え、梅花皮岳・烏帽子岳が続く。雪渓が山々に化粧の様に纏い、緑と白のコントラストが心を躍らせる。
梶川峰から扇の地神まではこの山行中最もゆったり歩ける部分だ。扇の地神からは再び辛い歩きになる。
胎内山に登って下りる。
やっと門内小屋が見えてくる。門内小屋は簡単に通り過ぎるつもりだった。ところが管理人さんが小屋の前で作業していて、立ち止まって話をすることに。
『うちに泊まる人は少ないから』なんて話していたが、なぜか親しみやすい顔立ち。『それじゃ』って別れた途端に思いだした。
『高桑さん?』と聞くと『そうだよ』と言うように敬礼をして『何処かで会った?』
そこで私が【源流釣り集団】を主宰していた話をして『ビデオや本をほとんど見ました』というと、『ありがとうございます』と最敬礼をし『帰りに寄ってください、酒でも飲みましょう』
明日の工程を考えるとここで停まる訳に行かず、心を残して梅花皮小屋に向かう。
門内小屋から門内だけは1分で到着、山頂には小さなお社が祭られている。いつもの通りお賽銭に見合わない無理なお願いをする。
本日最後の登りと下りは北股岳へ。なかなかの難関である。特に7時間ほどの歩きで、筋肉は大分ダメージを受けていた・・・辛い。
北股岳の山頂には鳥居が立っている。ここでもお願い・・・。
北股岳は梅花皮小屋への下りの方が余計にキツイ。下りに弱い私はなおさら【泣き】が入った・・・が、あと少しだ。
このあたりからは石転び沢雪渓を望むことができる。
梅花皮小屋まで後30分ほどだろうか? 眼下に望むことができた。先ほどから上空をヘリが舞っている。荷揚げのヘリかと思っていたが、着陸した様子がなく不思議ではあった。良く見ると黒一色の迷彩色で自衛隊機のようだ。
最初あまりに私の頭上を旋回するので手を振ったりしていた。後で考えると私を仮想敵兵としての攻撃訓練だったのでは・・・と思える。
石転び沢雪渓の空域は狭いスペースなので、操縦技能訓練には適した空域なのだろう。
この日の梅花皮小屋の宿泊者は一階に4人、二階に5人とゆったりとしたスペースだった。小屋からは明日の目標【大日岳】が良く見える。
小屋から50メートルほど離れた水場は、冷たい湧き水が太いパイプいっぱいに流れ出ていた。
梅花皮小屋は建物の中でコンロを使うことができる。北アの小屋では考えられないことだ。
床に50センチ幅でモルタルが敷かれている。風の強い日などは大いにありがたい。
この日の食事はお湯を注いで15分待つと出来上がる牛丼と卵スープ。栄養としては十分なはずだが何とも侘しい食事だ。
ついつい心が満足せずにパックのお酒を2個も飲んでしまった。
本当は二日分のはずだったのに・・・明日はビールでも買おう。すっかり気持ちよくなった私は6時にはシェラフに入っていた。そして少しは眠ったようだ。
7時に一旦目が覚めてトイレに行くと、すでに誰一人として起きている人はいなかった。
明日はみんな早立ちのようだ。私も明日は長い戦いになるから・・・『今日はイビキを気にせずに・・・寝るぞ~』