今シーズ最初で最後の天候に恵まれて・・・北岳・(間ノ岳)
平田影郎
先週の朝日を日帰りできた事でかなりの自信を持つ事が出来た。今週は天気が良さそうなので思い切って北岳と決めたのだが、脚力や小屋の混雑など不安な材料はある。おまけに付き合ってくれるはずの相棒は北海道の十勝と大雪に単独行らしい。
夕べは一睡も出来ず3時前には家を出て芦安の駐車場に6時に着いた。ゆっくり準備してバス停に並んだが、バス会社の従業員とタクシーの運ちゃんが怒鳴りあいをしている。タクシーが客引きをしたという理由らしい。何だか朝からのトラブルに私の心は胸騒ぎで、さらに北岳という途方も無く偉大な目標に挑むと言う不安を乗せて、7時のバスは出発した。客はほとんど1台で足りるほどしか居らず、更に3割は釣の客である。小屋は空いてそうで良かった。
ペース配分を考えゆっくり目のスタートを心がけた。あえて不安のある新しい靴で挑戦することにしたが、早速30分も歩くと踵が痛み始めた。予測していたことなので山行を止めるつもりはなく、テープ絆と靴紐で調整をする。二俣までの間で3回も締めなおしたが足の治療をしながらというわりには、2時間15分ほどで到着したのはまずまずの出来である。
二俣で休憩していると八本歯へは雪渓の雪が多く行けそうにないとの話でもちきりである。小太郎尾根に向うとタイムは1時間以上違ってしまい、予定が狂ってしまう。小屋への到着が4時半を回ってしまうかもしれない。何とか食事の出来る時間に到着したいものである。
小太郎への急登は厳しいものの花が疲れを癒してくれた。花と話しながら足を運ぶと鳳凰三山が挨拶に現れた。おそらくオベリスクと思われるピークも見る事ができた。
足は相変わらず痛む。靴を脱いで見るとはがれたテープ絆が摩擦となっているので、今度は滑りやすいようにガムテープを貼ってみた。後で判るが紙のガムテープは汗をかく時季はやぶれて良くなかった。
小太郎分岐からは更に色とりどりの花が斜面を覆いつくし、確かに疲れてはいるものの足を止めさせるのはそのせいではない。これほど真っ盛りのお花畑は初めて見た。
肩の小屋で停まってしまう人が多くこの先に進む登山者は一気に少なくなってしまった。天候も少し崩れ、もう仙丈のピークは雲に隠れてしまった。当然北岳の山容は全く計り知れない。確実に一歩一歩進めるしかない。花の話題で溶け合った浜松の若いご夫婦と一緒に北岳を・・・というより、北岳山荘を目指した。1時間ほどで北岳山頂に立つが全くガスに覆われ、パッドレスを覗き込んでも何も見ることは出来ない。誰も挑んでいないようで、呼びかけても返事はなかった。
一週間ほど前に設置された三等三角点を写真に撮ったが、今回100年ぶりに改修されたものらしい。
ここまでヘトヘトの状態で、これにプラスして靴擦れも半端な痛さではない。あと1時間の下りに耐えられるか心配であったが、とにかく山荘を目指して下った。途中の岩場にしがみつくように広がるお花畑は壮観で・・・圧倒され・・・この時季に北岳を選んで本当に良かったと実感させられた。しかし膝に力が入らない状態の上、花に夢中になりすぎて痩せ尾根の岩場で3度もよろけた。落石も起こしてしまったが幸い下方を歩いている方がいなくて助かった。どんなに静かに足を下ろしても砂礫帯の砂と小石はザァーザァーっと音を立てて落ちていった。慎重に・・・慎重に・・・。トラバース道からの合流を過ぎると岩場と崩落する砂礫帯もも終わり穏やかな尾根となった。
靴擦れの治療の間に先行した浜松のご夫婦が立ち止まって何かを見ている。“おそらく雷鳥だろう”と思って近づくと、案の定雷鳥であった。本当に間近で写すことが出来た。そんなことで停滞している間に一瞬ガスが晴れ、本当に近いところに山荘を見る事が出来た。あと15分ほどだろうか。足が痛くてたまらなかったはずなのに、後で浜松のご夫婦が『とても追いつけなかった』と言うほど、私は急ぎ足になっていたようだ。何とか食事が摂れる時間に私たちは山荘にたどり着いた。
花の百名山 北岳