ついに陥落・・・塩見岳(城)・烏帽子岳・本谷山
平田影郎
南アルプスの南の地域は足を踏み入れにくい印象がある。山裾が広くまた奥が深い。そのためどこの山に登ろうとしても、登山口までは延々と林道を走る事になる。その林道が確りしていればいいが、その事への知識がないとどうしても気持ちが重くなってしまう。
実際は確りしたアプローチだが。
今回、7月の豪雨で静岡側のアプローチ、畑薙ダムからの道が崩落で通行不能になっていた。そのことを知らずに訪れたのだが、それが幸いした。
と言うのは知っていたら混雑を嫌って山行を中止したいた可能性が高い。当然利用できるアプーローチに登山者が集中するし、実際に易老渡へのアプローチもこの日崩落で通ることができず、さらに鳥倉林道に登山者が集中した。後で小屋で登山者同士の会話で知ったのだが多くの人が朝になってから通行止めを知り、こっちに回った人が沢山いた。逆に山行を中止した人も多かった可能性もある。
なんとなく取りつきにくい山行計画を実行に移さなければならない状況に、否が応でもなってしまった。近くには百名山登頂の数を増やす要因がない。
残っているのは北海道と九州の山、そして飯豊と富士と南アの南だけだから、数を増やすためには・・・ここ塩見なのだ。
林道駐車場には8時に着いた。まだ他の急きょ通行止めになった場所からの登山者はいなかったと思うが、一台のスペースもない。
私の一台前の方が路肩に駐車していた。私も一旦路肩に止めたが、どうもしっくりしない。なぜか路肩に停める事がためらわれた。
私の後の柏の方は1キロほど戻って空き地に置くという。その話を聞くと路肩に停める罪悪感にさいなまれ、準備を終えて登山靴を履いていたが私も車を空き地に移動した。考えれば僅か10分ほどの事、気持ちよく山行ができる分だけ得をしたことになる。
柏の方の隣に停めて会話を交わしたことで、今回の山行はこの方と行動を共にすることになる。私の方が準備を終了していた分、早い出発になった。
この時バスが通っていたはずなのに、ゲートからにしては中々戻ってこないことが不思議だった。ゲートに私が着いてもバスがいない。後で知るがバスは登山口まで利用できたのだ。30分は得をできたはずだが・・・路肩に罪悪感を感じずに停められる性格ならバスを利用できていたのが残念。
しばらく歩くと林道ゲートの駐車場が望めた。私の車はここから左手に遥か1キロも離れた場所にある。林道を登山口に向かっているとゲートにいなくて不思議だったバスとすれ違い、登山口が終点だと知った。朝と昼の1日2便だが入下山に利用できる。
登山口が見えて来た。バス停とトイレがやっと見えた。ここまで40分ほどを要している。トイレを使って登りにかかった。登山道は緩やかな傾斜の上、ゴロゴロした石などもない道で歩きやすい道だ。しかも樹林が日除けとなって快調なペースで進む。
今日の宿は三伏峠小屋と決めていたので急ぐ必要は全くなかった。早く到着してもやることもなく時間を持て余してしまう。実際には塩見小屋に電話をし確認してから決めれば良いものを、何ともせっかちに三伏峠小屋と決めたものだ。後で聞くとこの日の塩見小屋の登山者は30人ほどだったらしい。残念、塩見小屋までこの日のうちに入っていれば、翌日がかなり楽な行程になっていた。
ところが世の中・・・何が幸いするかわからない。
三伏峠小屋に泊まったおかげで烏帽子岳に登れたし、途中の素晴らしいお花畑も見ることができた。さらには翌日塩見小屋からスタートした多くの方はガスで眺望の効かない塩見山頂に立つ事になってしまう。一方、塩見山頂まで3時間を要した三伏峠小屋宿泊者が山頂に立つ時間には、ガスが取れ360度の大パノラマを目にすることになる。
登山道は数か所で木の梯子や橋が架けられ、整備が行き届いている。途中の水場で一服し再び歩き始めるとほどなく塩川からの道が合流する。
しかし塩川からの道も崩落しているようで通行禁止になっていた。この時の南アルプスはズタズタに引き裂かれた状態だった。
林道ゲート手前の歩きを加えても3時間もかからずに峠小屋到着した。安心した途端に空腹を覚えた。ザックにはパンやおにぎりがあったが、これは翌日に回すことにしてカレーを注文した。このカレー、味はまあまあだが何を間違えたかボリュームがすごい。
どうもアルバイトの娘が初めて貰った注文に、適正な量がわかっていなかったようで厚みのあるスパゲティ皿一杯にご飯を詰め込んだようだ。残すのは悪い気がして・・・無理して全部胃袋に収めたのが、この後大いに祟ってしまう。烏帽子岳へは重い胃袋と胸やけを抱えて歩く事になり、大切な夕食も僅かしか摂ることができなかった。
そんなことをしていると柏の方が到着した。三伏峠ではドコモなら電話が通じるので、妻に明日の予定などを連絡した。
小屋の受付を済ませてすでに一杯やっていたが、予定通りお花畑を見ようと烏帽子岳に向かった。マツムシソウやマルバタケブキ、ハクサンフウロが真っ盛りで・・・花好きとしては大いに堪能できた。鹿の食害から守るためかネットで囲まれていた。
お花畑を通り越して烏帽子に登頂する。30分ほどかかり一杯やっていた私には辛いのぼりで、何度も気持ちが切れそうだったが・・・登頂成功。
御覧の眺望に恵まれて・・・付録ではあるが・・・付録のようなケチなものではなく、富士山まで望むロケーションな感動する。先に来ていた柏の方とここでも合流し、写真を撮りあった。この後小屋では山談義に花が咲き、さらに多くの方と知り合いになった。
特にスペインを巡礼で歩いた方の話は興味深く、ブログのアドレスなども頂いてきた。
夕食は天ぷら、まあ合格点の食事。消灯後はやっぱりすぐには寝付かれず、隣の人の迷惑も顧みずに薬の力で眠ることに。翌朝隣の方は頭と足を反対にして寝ていた。きっと私のイビキへの対策なのだろう。申し訳ないが・・・私も寝なくては。
まだ暗い4時半に出発した。3時には満天の星空だったのに・・・ガスで何も見えない。私の前はおそらく10人もいないはず。登山道を覆う草にはたっぷり夜露が付いていて、私のズボンを濡らす。5時前には明るくなりヘッドランプを消した。
塩見小屋まで以外に早く2時間ほどで到着する。すでに戻ってきた方もいて、眺望の効かない山頂に諦めきれない思いが感じられる。
しかしこの時点で私は360度のパノラマを確信していた。登り始めると事実ガスは次第に吹き飛ばされて無くなって行った。
聞いていた岩場の話も少々個人個人で感じ方が違ったようだ。要するにルートファインディングの技量の問題、岩場の経験の問題で高所恐怖症の私が十分対応できる範囲の厳しさだ。私には水晶の方が嫌だったなーー。
甲斐駒・北岳、富士山、荒川三山・・・枚挙に暇がない。次にアタックする荒川三山をしっかり瞼の裏に焼き付けた。実際には富士山は目の前を覆うほどに、大きく視野の中にある。実にダイナミックでやはり日本一の山。
明るくなってスタートした柏の方も到着する。50㍍ほどしか離れていない西峰で万歳をし、写真を撮った。例のスペインを巡礼した方はスケッチをするのが趣味で、東峰の山頂ですでに描き上げようとしていた。
この方のブログには毎日のようにスケッチが掲載されているので、興味のある方はリンクから訪ねてみてください。
スペインの巡礼記も面白そうです。どうしてあの長い巡礼に行けるのか・・・と思いましたが、先生だというので納得です。
夏休みがありますから・・・。
三伏峠までは僅かな時間で戻れます。200円で買った荷札を着け、預けておいた荷物を回収しパッキングのし直し・・・そして食事。とにかく荷物の減量化に取り組む。残していた非常食で昼食。14時のバスに照準を合わせた行動を取るには、小屋に昼食を注文しては障害になりました。
食べ物を残しておいたのが成功でしたが、暑い中を持ち歩いたので痛まなかったのは単にラッキーだったのかも?
昼食中に夕べ塩見小屋に泊まったという福島のご夫婦とバスの時間の事で会話をする事になり、その縁で下山口まで行動を共に。
百名山は50座ほどのようだが私が近々挑む飯豊は何度も登っているらしい。いろいろ教えてもらいたい事も出てくるだろうから。
ホームページを覗いてくれるようにお願いした。来てくれたかなー。
結局バスには余裕で間に合い、逆に暑い中で待つ事になってしまった。伊那バスの運転手さんがこれまた親切な人で、ゲートより大分下った場所まで乗せてくれて・・・ありがたかったなー。林道でバスに追いついたのでもう一度お礼を言った。
とうとう私にとっては永年難攻不落の城の存在だった塩見城を、あれこれ策を弄さず大手門から攻め入って陥落させた・・・思いだ。