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花-65-1. 燕岳

三大急登と言うけれど・・・燕岳

メ モ
登頂日 02/10/04(金)
天 候 晴れ
標 高
登山口 中房温泉
同行者 先生
温 泉 中房温泉《御座の湯・不老泉》 単純硫黄・単純重炭酸 700円

タイム
場所・地点 往路 (着) 往路 (発) 復路 (着) 復路 (発)
所要時間
9:00
       

平田影郎

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山々はいま紅葉の真っ盛り。おそらくはどの山に出かけても素晴らしい紅葉を見ることができるはず。それだけに選択肢は豊富で行き先を決めるのにずいぶん悩んだ。行きたい山は山程ある。

甲斐駒、爺ケ岳、燕岳・・・3連休で、行きたいところには行けるだけの時間もできた。先生に相談すると選択肢の中から燕岳を選んだ。

百名山には入っていないが北アルプスの名峰、花崗岩の岩峰で白い砂礫帯に咲くコマクサなどで人気が高い山である。位置は俗にいう北ア表銀座の玄関にあたる。

北アの三大急登である合戦尾根への挑戦、果たして登りきれるだろうかとの不安もある。実は前々から燕岳をねらっていた。

紅葉が良いと聞いていたのもあるが、燕山荘という山小屋に泊まってみたいと思っていたからだ。この小屋はかなりいいらしい。

何が良いのか確かめてみたい。先生は北アルプスへのデヴィューでもあり不安と期待が交叉していることだろう。8時に合戦尾根にとりついた。三大急登とはどれほどの登りなのか不安混じりのスタートである。

合戦尾根には所々に休憩所が用意されている。それを第一ベンチ・第二ベンチ・第三ベンチ・富士見ベンチと呼び、実際に丸太を組んで作った実に座り心地がよいベンチが、絶妙のタイミングで休めるように設置されている。

第一ベンチまでが30分、第二ベンチまでも30分。さあいよいよ核心部の急登に挑もうという時、一人のかわいい少女が上から降りてきた。

それは森の妖精が木々の間から第二ベンチというステージにフッと登場したような現れ方であった。ベンチで休んでいた人たちが一斉に少女を囲んでの話しになった。

小学校2年生で池田から来たという花野子(かのこ)ちゃん。ひとしきり皆から褒めそやされると、何か話したそうに先生と私の隣に座った。

「おじさんこれから登るの?」「そうだよ」などと会話のあと「私はアルピニストにはならないと思う」 とポツンともらした。

皆が「将来が楽しみだ」などと言う事への彼女なりの反発だろうか。親の趣味で命名され、親の山行にマスコットのように同道を義務づけられる自分の身の上が、小さいながらに負担に感じているのではないだろうか。

「山は花が綺麗だし、良いじゃない」

「だって楽しくないも」 「そうか・・楽しくないのか。」

「うん」 「じゃ・・こうしよう、先の事まで考えるのは止めてさー・・・大きくなってもまだ登りたいなって思っていたら・・・登れば! そしてその時も楽しく無かったら山を辞めればいいじゃない」 

「うん」と頷いた彼女の顔は、太陽を浴びたようにパッと明るくなった気がした。

抱きしめたいほど素直で愛らしい光をはなつ瞳だった。

私たちが腰を上げると「気をつけてね」と送ってくれた。小学2年生って、こんなにしっかりしていたっけ!!

第三ベンチまでが35分、富士見ベンチまでも35分、実に計算され尽くしてベンチがある。残念ながら富士見で富士を見ることはできなかった。

晴れてはいるのに何故かすっきりしていない日だ。 快調に登る。先生の口からも“三大急登も大したことはない”と言う発言が飛び出した。

合戦小屋には11時40分に着いた。これは計算尽くで、昼にここでうどんを食べようという計画になっていた。

荷物を軽くする目的もあって、昼メシを持たずに登ってきたのだ。

うどんはみそ煮込み、腹が空いていたことを割り引いても・・・これはうまい。山では物価がメチャクチャ高いが、この900円は絶対安い。

合戦尾根は紅葉真っ盛り
急登の先生
合戦小屋でうどんを食べる
うっすらと槍が浮かんでいる
 
 

合戦の由来は坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)と大蛇が戦をしたという古事から。

合戦小屋からは更に1時間で燕山荘に到着できる。もう少しのがんばりだ。常念岳を左手に見ながら登っていく。

途中、槍ヶ岳がいきなり眼前にそびえ立つ。残念ながら今日はくっきりとは見えていない。ただ先生は初めて見た槍に大感激。写真で見たのとは大違いだと・・絶対登るんだ・・とも。

餓鬼岳が見え始める
燕山荘は天空の城
燕岳
奇岩
 
 

私も槍がずいぶん大きく感じた。穂先だけしか見えていないのに、他を圧倒する迫力はさすがは槍である。恐怖感すら湧いてくる。

最後の登りは紅葉の中を進む。ナナカマドは赤い実だけが残っていた。

燕山荘にチェックインした。荷物を置くと二人は燕岳を目指した。6時間を要して頂上に立った。何とも言えない雰囲気に包まれた岩峰群、砂礫帯、今まで入り込んだことのない不思議な空間である。

燕山荘の宿泊者は100人、定員の6分の1という超ラッキーで1畳に一人、ゆっくり休むことができた。10時間も寝て腰が痛くなってしまった。

食事もうまい、ビールはジョッキで2杯も飲んでしまった。ティーラウンジからは安曇野の夜景の輝きが綺麗に見えた。ロケーションがよく清潔で設備も整い、北アでも最上級の山小屋だと思う。

ラウンジで友達になった人とたまたまベッドも一緒だった。山登りが初めてでヒマラヤに行くための練習で登ってきたという。恐ろしいほど山の怖さが分かっていないが、以外とビギナーズラックでヒマラヤをこなしてしまうかもしれない。けどそんなはずはないか。

夕焼けの槍、朝焼けの槍とも雲に覆われて写真を撮ることはできなかった。

燕山荘からは槍の北鎌尾根が足下から延びていくように見える。そして駆け上がった先にある槍の穂が、あまりにも大きすぎておかしなほどにアンバランスであった。

下山は2時間半、ほとんど休みなしで降りきった。後日足の筋肉が痛くなってしまった。今年は相当に鍛えていた筈なのに、それでもダメージを受ける程の過トルクだったようだ。

ピーク?
北燕岳に立つ大津市の方
燕山荘とアルプス銀座

中房温泉は源泉井36本、風呂数12で他に類をみない湯量・泉種をほこる名湯・秘湯である。ところが700円を支払って大浴場に行ってみると、小さなタイル張りの浴槽に単純泉とおぼしき湯がチョロチョロと落ちていて、つま先を入れてみると湯温も低い。おまけに先に入浴した登山者が落としていったと思われる垢が浮いていた。先生怒る。

中房温泉の名にかかわる、インターネットで告訴してやると出ていってしまった。あわてて服を身につけ後を追うと、すでにご主人を掴まえていつもの交渉が開始されていた。

とうとう絶対に宿泊者しか入れない風呂“御座の湯”に入る許可を手に入れたのである。

おそらくは弘法大師が座ったところから湯が湧いたと言うことに違いない。中房でも1・2番に古い風呂だろう。洗い場が板張りの風呂ははじめてであり、湯もなんとなく貴賓が感じられた。ちなみに洗い桶はケロリンであった。ムリを言った手前お風呂の掃除をさせていただいた。

実はこの前に二人は入ってはいけないエリアに忍び込み“不老泉”に入っていた。これは炭酸を含むヌルヌルで笹倉温泉に匹敵するほどのお風呂であった。

それにしても先生の交渉力には恐れ入った。私だったら“不老泉に入ったから、まっ、いいか”となる所だが、後ろめたさをおくびにも出さないのはさすがだとしか言いようがない。

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