思い出さがし・・・美ガ原(2回目)
平田影郎
《霧ガ峰からの続き》
山本小屋の駐車場は運良く1台分が空いていた。妻が昨日のうちに焼いておいて持参したパンが昼食二人の昼食である。
17年ぶりに訪れた美ガ原は何も変わっておらず、違っているとすれば二人が年齢を重ねたことと、ヴィーナスラインが無料になったこと。
今回のコースは十数年続けた信州旅行の第一回を訪ねる意味もあった。
この霧ガ峰や美ガ原ロケーションが、十数年間私と妻を信州に通わせたのだ。とにかく二人はここが好きなのだ。
毎年・・・どんなに大病をしても訪れない年はなかった。
昼食休憩が短かったので胃の負担を避けるためゆっくりと進んだ。放牧された牛の頭を柵越に撫でたり、柵沿いに咲く花を楽しんだりゆっくりゆっくり進んだ。
妻もジャージー種の混じった混血の牛を見て、「あれ、ジャージーだよね」とマニアックな発言、さすが俺の女房だけのことはある。
「こんなに沢山の人がいても牛を飼ったことがあるのは俺だけだろう」
「そうだよね」 他愛のない話をしながらでも、やっぱり二人で歩くのは楽しい。
(私の実家は岩手でも有数の牧場であった・・・すでに廃業)
塩クレ場を過ぎたあたりで上毛電鉄ツアーの大団体が道一杯に広がって我が物顔でやってきた。旗が1から3まであり、おそらくバス3台の集団である。添乗員が注意するでもなく、大声で話しながら他人を押しのけていく。
全く廻りに気を配る様子もなく、デリカシーのない人の集団だ。骨折したばかりの手をかばいながら歩く妻に少しでも触れたら怒鳴りつけてやろうと思っていると、よほど私の顔が怖かったのか慌てて飛びのけていた。
柵に沿って咲いているのはハクサンフウロ・・・貴重種だよ・・・知っているの、もう少し楽しみながら歩いたら・・・
添乗員さん、楽しみながら歩くことを教えるのも仕事だよ。余計なお世話と知りながら何かいってやりたい爺婆集団であった。
同じ方向に歩いていた人は、同じツアー仲間と思われないようにとこぞって懸命に弁解していた。その気持ちお察しします。
何も変わっていないと思ったが、良識のかけらもない輩が思い出の地を蹂躙していた。これも百名山ブームの弊害かも知れないなぁー。
私はツアーでいく事があっても廻りに迷惑をかけないように行動しようと肝に銘じた。
50分程で大きな建物に着くが、これがホテルとは・・・またしても下調べ不足である。
少し息が上がった妻をテラスの椅子で休ませている間に山頂標を探した。
が・・・良くわからない。仕方なく案内板にしたがって三角点まで行き、妻を立たせてデジカメを向けると、またもや電池切れである。
どうも肝心なときに電池切れが多いカメラだ。証拠写真のない王ガ頭登頂である。見えるはずの北アルプスは雲に覆われ全く姿を現すことはなかった。
久しぶりで妻にはかなりダメージがあり顔色もあまりよくない状態になってしまった。やっぱり一日で2座は無理だったか・・・と反省する私をよそに、妻はさっさと歩き始めた。帰路はやはりゆっくりであったが40分程で小屋に着いた。
小屋では定番のソフトクリームと搾りたてミルク。少し休んだ後、二人は武石村へと下った。信州旅行元年に別所温泉から登った道だ。
その後は和田峠と大門峠ばかり利用するようになり通ったことはない。今回は新たな発見があった。【福寿の水】という素晴らしい湧水にめぐり合うことができた。また財産が増えてしまった。
これで妻も百名山4座登頂。今年のノルマはあと1座になった。私のノルマはあと10座。10月、11月の2ヶ月で10座がこなせるはずはない。