花に見とれて生死が紙一重・・・【高妻山】
平田影郎
戸隠山を予定していたので、戸隠牧場を目指す。長野インターからはナビに頼って進むが、何と住宅街の細い道に誘導されてしまう。それでも早朝なので予定通りに戸隠に到着。
思いでの蕎麦屋さんなどを横目に見て、戸隠牧場高妻山登山者駐車場へ。
着いてみると駐車場は数十台の車。これだけ車があれば戸隠山であれ高妻山であれ、先行者は沢山いるはずだ。
ここまで来て再び・・・どっちにするか迷う。がっ何となく厳しい戸隠に怖気づいて、先行者が多いと思われる高妻に変更した。
牧場から仰ぐ戸隠山の威容には圧倒されてしまう。誰か同行者がいてほしいが、ローンウルフにはとうてい無理な話だ。
牧場の中を通り抜けて登山口へ向かう。牧場は多くのキャンパーのテントが設営されていて、家族連れが朝食の準備中だった。牧場も家畜の飼育ではなく、新しい業態に活路を見出したようだ。
登山口では弥勒尾根の案内表示があるが、私の山地図にはそんなコースは乗っていない。やはり地図だけは新しいのを揃えないと事故に直結する。
沢沿いにはまだ分厚い雪渓が登山道をふさいでいて、割れた雪渓の隙間を潜って進む。
滑滝は前回滑って怪我をしているので、今回は慎重に登った。
ちらほらと花が目につく。まだまだ雪解けの時季で、サンカヨウがきれいだ。タツナミソウやシラネアオイも彩りを添える。
このあたりから一不動までは一気に高度を上げていく。そして最も難関の帯岩に到着。帯岩は鎖が付いているので心配は無い。がっ、渡り終えて一段上に移動するのが結構厄介だ。むしろこっちに鎖が欲しいと思う。
そこからさらに5分ほど急登を登ると、一不動避難小屋が目に入る。ザックを下ろして確り休憩する。
ここまでの間に戸隠を縦走してきた数人に話を聞いたが、ここから九頭竜山を越えて戸隠まで危ないところは無いらしい。
危ないのはその先だから、戸隠山で引き返すコースは安全との事。次の機会には安心して挑めそうだ。
お腹が空いてきたので朝食で残ったパンをお腹に入れる。足に再びエネルギーが充填された気がする。
一不動が祭られているのは分岐から高妻山側に5㍍ほど藪の中になる。一応刈り払いがされていて、目に入るはず。
途中一株だけハクサンチドリが、そしてグンナイフウロも僅かに見える。それに反してシラネアオイは登山道を飾っている。
この日は山頂の近くまでシラネアオイが主役だった。
前回もそうだが・・・二釈迦が祭られている個所を見落としてしまう。急登を必死で頑張るから、わき目も振らず・・・見落としてしまうのだろうか。前回もだから祭られていないのかもしれないなあ。いつも見落としてしまって・・・縁が感じられない。
(家に戻ってネットで調べた。そしたら確り祭られていて、写真がアップされていた)
四普賢と五地蔵は登り一辺倒だから、辛いもののそれはそれで耐えられる。がこの先は幾つものピークから下って登るを繰り返す。容赦なく足にダメージを押し込んでくる。
五地蔵からは2時間を要すると有るので、五地蔵山山頂で腹ごしらえと休憩を確りとる。
先ほど追い越してきたパーティが『五地蔵から周回して帰る』と言っていたので、別ルートがあるのは確かだし、登山口には看板もあったからと思って探してみた。
ところが見つからない。どこにあるんだろうとは思ったが、六弥勒を通る時にはすっかり頭から抜けていた。
早速、六弥勒までは一旦下って登る一度目のアップダウン。小さなアップダウンだ。本来、ここで別ルートを探すべきだったのに、変なオジサンがいたので、かかわり合いたくないのでついついそのまま通り過ぎてしまった。
帰りに知るが・・・このオジサンが座っていたところから弥勒尾根のコースは下っていた。本当に変なジジイで・・・そんなとこに座ってんじゃないよ!
写真はジジイが写らないようなアングルなので、当然、弥勒尾根コース入り口も写っていない。しかし看板が木にぶら下がっていたので下りの時には必ず目に入る。
七薬師からはちょっとおおごとで、かなり下る。かえりが不安になる程だ。
しかしこのあたりには一段と花が増えてきた。ツバメオモトやイワナシなど他の山であまり見ない花も多く咲く。
何よりシラネアオイの群生がすごい。登山道を確り彩ってくれている。そして赤いコイワカガミと白いオーレンなどの彩もまた綺麗。花の百名山ではないが、それに匹敵する。いやそれ以上かも!
急峻な山であるためお花畑と言えるような広い場所がないのが、花の百名山に入らない理由なのだろうか。
種類・株数ともに十分な花の百名山である。そんな山は結構多い。
八観音辺りも花は多い。このあたりには雪渓も残っていて、帰路ではここで滑って岩から滑落してしまう。とっさに身を反転させて受け身の態勢を取ったが、僅かに打ったようだ。
家に戻って痛みだし、くしゃみが出ても辛い痛みに3日間ほど苦しんだ。骨折は無かったようで、救われた。
遠くの雲間から黒い山が覗いているが、方向的に黒姫山なのだろうか。だとすれば標高が低いのにダイナミックな山である。
九勢至に到着するといよいよ最後の厳しい登りが始まる。1時間ほどの恐ろしい急登だ。
すれ違う人が口々に厳しいと言う・・・登り。あまりに皆さんに言われると怖気づきそう。でもこんなに厳しかったかなあ?
厳しくないと思っていたので、戸隠を止めてこっちにしたのに。戸隠にしとけばよかったのかも。
実際,十阿弥陀に着いた時には足を前に振りだすのも辛かった。
それにしても本当につらかった。外国人ファミリーと一緒だったから、気がまぎれて最後まで歩みを止めずに歩けた。
子供たちに負けまいと・・・後でわかるが5年生の可愛い女の子に励まされて・・・頂上に立つ事が出来た。
この1時間の辛さはちょっとないかも・・・短いスパンで救われている。
山頂は団体さんも下った後で、4・5人が食事していた。そこにアメリカンファミリーと私と松本の人が加わり、何歳だとか、どこからきたとか、大いに盛り上がる。
最初に腰を上げたのはアメリカンファミリーだった。ずーっと後ろを歩いて、頼まれたわけでもないのに5年生のお嬢ちゃんのサポート。実際は何も必要のないほど山に慣れていて・・・ただ身長がないので苦労しているに過ぎない。
お父さんが良く連れ歩いているようだ。赤城に近いところに住んでいると話したら、先日登ったと喜んでいた。
大下りを終えて現れた雪渓のところで、何と私が転倒・滑落。恥ずかしくて痛い仕草はできないが、幸いにもその時の痛みは僅かだった。
家に戻ってからは骨折かと思うほど痛みだしたが、それも五日ほどで痛みが引いた。
すれ違ったご婦人に教えてもらっていた六弥勒からのコース。探すまでもなくすぐに判った。往路ではこの入口に座り込んでいる変な輩のために見落としていた。松本の方もこのコースを登ったと言い、普通の登山道だったとの
事。痛い脇腹を抱えて沢沿いに帰るのは躊躇され、弥勒尾根を下ることにした。
確り看板もあり確り手入れもされていた。だが急登ではある。
コース周りは竹がブッシュになっていて、手入れが行き届かないと大変なコースになると思うが、しっかり刈り払われて道幅も広くて気持ちよい。
ところどころで竹の根が滑る。大きな段差を降りようとしたとき、2・3度こけたが岩などがないので事なきを得た。
このコースにもツバメオモトが群生していて、高妻山の植生は少し違うようだ。
30分も下ると樹林帯になり、ますます歩きやすい登山道になる。途中1か所だけ長いロープが張られた箇所があるが、頼る必要がないほどだ。ただコース全体を通して急峻な下りであることは間違いない。
ここから牧場まで90分・・・という看板から50分で牧場の作業道路に降り立った。そこから駐車場までが、さらに30分。
戸隠を縦走してきた人から先週尾瀬に行ってきたというので、色々尾瀬の情報などを聞きながら駐車場に戻り付く。
牧場に戻る前に沢で裸になって頭や上半身をざぶざぶ洗った。気持ちよかったなあ。
もちろん組み上げている個所より下流だ。
私は牧場の息子なので、この長閑な風景は癒やされて・・・大好きだ。